
”写真はものの見方をどのように変えてきたか” 第三部は”再生 12人の写真家たちと戦争”.
出張帰りに行ってきた.金曜日は遅くまで開いているのでちょうどいい.東京都写真美術館の展示室に入ると,独特な匂いがする.写真の匂いというわけではないと思う.焼きたてのパンの匂いと洗濯して外に干してあったタオルの匂いを足して2で割ったような匂いだろうか.この匂いをかぐと,「よし,写真を見るぞ」と気持ちのスイッチが入る.
今回の展示はサブタイトルが示すように,12人の日本の写真家の戦前から戦後にかけての作品を展示している.テーマの”再生”も明快で,軍国主義により制限された写真の自由な表現が,戦後に”再生”していくことを指している.12人は木村伊兵衛,濱谷浩,林忠彦,大束元,桑原甲子雄,熊谷元一,河野徹,小石清,植田正治,中村立行,東松照明,福島菊次郎.(展示順のつもりだが自信がない.)
まず,木村伊兵衛.国の宣伝紙「FRONT」の写真を撮っていた.木村伊兵衛の「FRONT」は近代美術館でも見たことがある.「FRONT」は敵地にばら撒き,日本の強さをアピールするための国策雑誌だ.当然,勇ましい内容の写真になるのだが,そのなかにも”木村伊兵衛らしさ”を感じる.木村伊兵衛が戦争に対してどのような感情を抱いていたのか知らないが,写真を撮ることに関しては戦中も同じように取り組んでいたのだと思う.
対して,濱谷浩の戦中・戦後の作品をみると戦争の影が感じられない.あえて人間とその生活を写そうという意志が感じられる.胸まで泥に汚れて田植えをする女性を写した作品は光を映す水田と泥に汚れた体だけを写し取っているが,非常に迫力がある.白黒写真の美しさを感じる.
もう一人,植田正治のことも書いておこう.とても面白い作品ばかりだったので,植田正治に興味がわいた.この人の作品は”演出写真”というジャンルらしい.被写体にポーズをとらせている.「茶谷さん」,「茶谷さんの娘」は題名も面白いが,作品も味わい深い.三角形の山を背景に茶谷さん,茶谷さんの娘が写っている.茶谷さんは写真の中央に移っているのではなく,左下の隅にカメラを意識しない目線で写っている.うまく説明できないがイイ感じだ.
また戦前から戦後にかけての時代を写した写真展を見てみたい.写真集なども探してみようと思う.
東京都写真美術館の2Fでは「ブラッサイ ポンピドゥーセンター・コレクション展」が開催中だったので合わせてみてきた.こちらは戦前から戦後にかけてのパリを写した作品がメインだ.(戦前の作品が多かったように感じた.)写真集『夜のパリ』(1932)が代表作らしい.上述の「写真はものの見方を~」と同年代の作品なので,雰囲気の違いを味わうことができた.パリの30年代は”昭和”ではないなと感じた.「落書き」と題する,壁の落書き(鍵で彫り付けたような落書きだ)を写した作品も面白い.落書きは「原始のイメージ」などに分類されたそうだが,太古の壁画のような落書きがあり,おもしろい.
(9/2)
-追記(9/15)-
「植田正治 私の写真作法」を読んだ.
語り口は穏やかで軽快だが,内容は結構熱い.写真に対する真摯な態度が好印象だ.
戦前・戦後の回想からは,時代の空気が感じられる.
写真したくなる!